人生激辛ソムタム

風呂なしアパート20年の日々とタイ・インド

迷走人生 警備員1

サラリーマンを辞めて一度実家に戻った私が、再度東京に出てきたのは34歳のときだった。充分な貯えがあったうえでの再出発ではなく、早々に働き口を決めなくてはならない状況だった。ハローワークに通うことも考えたが、来月の生活費もおぼつかないいま、その時間的余裕はない。紹介状をもらって履歴書と職経経歴書を送り、面接の連絡を待ち、面接を受ければ採用か不採用かの連絡をまた待つ。失業手当がもらえていれば問題ないが、そうでなければそんな余裕はない。そこで正規雇用の道は諦め、すぐに仕事にありつけるアルバイトを探すことにした。
求人誌に目を通すと、日給10750円という仕事を見つけた。施設警備員。同じ警備員でも雨に降られると全身が濡れる交通誘導員は腰が引けたが、屋根のあるところに立つ施設警備員ならできるのではないかと思った。日給を拘束時間で割ると時給千円だったが、1日行けば1万円以上になる。電話すると面接の日時を言われ、行くと採用された。
もらっていた地図を頼りに現場に行き、そこではじめて警備の内容がわかった。マルチ商法で詐欺に引っかかった人達が、騙し取られた金を取り戻そうと押しかけてくるのを追い返す。面接でも研修でもそんな説明は一切なく、現場に来てはじめて知った。犯罪者を被害者から守ることに良心の呵責を感じたが、日給10750円の魅力には勝てず、仕事と割り切り働くことにした。