人生激辛ソムタム

風呂なしアパート20年の日々とタイ・インド

迷走人生 警備員2

浜松町にある小さなビルだった。色白で肥満の30代前半の男が隊長を勤めていた。そこに今回採用された新人5人と応援の1人が加わり7人で警備する。エレベーター前に2人、階段前に2人、3階ドア前に1人、役員室前に2人という体制だった。
押しかけてくる人は徒党を組んでくるわけではなく、1人か2人でやってきた。孫を連れたおばあさんのような人もいた。しかし多くの人が興奮していて、開いていないエレベーターに突っ込んだり、揉み合いになって警備員の眼鏡を床に落としたり、腹を殴ってくるような人もいた。白いロールスロイスで乗りつけたり、青森から車でわざわざやってきた右翼のような二人連れもいた。しかしマルチ商法の社員は慣れたもので、そうした一般人ではない人達がくると休憩室に通し、椅子に腰かけさせて待たせ、1時間もたった頃に、おそらく水道水と思われる偽の汗を拭きながら、
「いやいや、お待たせしてすみません!いま懸命に精査しておりまして」
 などと言いながら書類を手に現れ、正面に腰かけるや、
「こことここの数字を見ていただきたいんですが――」と、得意の口八丁で煙に巻いていた。